第22回 「降らずとも昭和も遠くなりにけり」
中村草田男の句に「降る雪や明治は遠くなりにけり」というのがあるが、表題は、先日テレビの終戦記念日特集の中で、若い女性に(十五歳くらいか)日本とアメリカと戦争をした事があるけど、知っているか?との質問に「えっ、アメリカと戦争、日本が…うそー」と答えている映像を見た時浮かんだ私の感想であった。
私が十五歳の頃の日露戦争は、五十二、三年前の歴史的出来事ではあったが、日露戦争は知っていた。戦争の善悪はともかく、戦争にいった経緯や終戦に至る苦労など知っていたし、周りにも生き残りと言うか、戦争体験者が何人もいた。我が家にも、祖父が二百三高地の攻撃に参加し、褒章として貰った金鵄勲章があって、時を経たわりには結構身近な戦争であった。
しかし、現在日本の原点である、昭和十六年十二月八日の日米開戦から昭和二十年八月十五日の敗戦までの太平洋戦争を知らない子供たちの存在、その恐ろしさは、なにも、戦争経験があるとか、空襲にあって逃げ廻ったといった、直接的な体験でなくとも、日本人として決して忘れてはならない歴史上の事実のはずである。
テレビの子と当時の私との時間差は、太平洋戦争と日露戦争との五十数年と言う事で同じだと思うのだけど、この差はあまりにも大きい。呆然、愕然といった言葉の中に沈んでしまいそうだ。
問題は学校教育なのか家庭教育なのか、それとも単純に非常識な女の子なのか。正しい歴史や常識を学ばずに、大人なになり、結婚して子供が生まれるという営みが繰り返されるなら、この日本は大変な事になる。否、世界がそれを許さないだろう。大半の子供達がそうでないことを祈るのみである。