第18話 「評判悪いぜ」

  サラリーマンにとって一番気になる言葉のひとつに「お前このごろ評判が悪いぜ」と言われることがあろう。そもそも人間、聖人でもなければ過ちや失敗のひとつやふたつあるもので、評判が悪いと言われてもそんな漠然とした言い方では、どの方面の何が評判が悪いのかさっぱり分からず、おもわずおたおたしてしまうのである。

  私などはそう言われなくとも人に言えない失敗談が山ほどあって「俺にいい評判などあるものか」と開き直る以外に返す言葉がないというのが本音で、今でもはなはだ情けない状態が続いている。

  この言葉が始末に悪いのは、悪い評判が何であるかを自分で探さなければならないところにある。

  組織の中のサラリーマンにとって上司や部下の見る目はことのほか厳しく、遅刻が多いのか、私用電話の事か、取引先からの苦情があったのか、接待費の使い過ぎかな、女性だったら化粧か香水の匂いがきついのか、などの自分にとって悪いであろう評判の判断を瞬時にするとなると、普通の人は大変困るのである。そしてそのような言葉が発せられるのは、たいてい、廊下ですれ違いざまやエレベーターの中で言われる事が多い。

  「ちょっと話があるので」と会議室や応接室呼ばれての話では決してない。

  そしてもっとも困るのは上司や同僚部下にしても、結構自分を知る立場にあるかはたまた親しい人間から言われる事である。

  気が弱い人なら「自分の評判の悪さ」をめぐって一日中仕事にならず、翌日は会社を休むなんてこともあるかもしれない。

  しかし、心配無用。その言葉に出会った時の対応をご教授しておこう。こう答えなさい。

  「そう言えば先日、先輩のこと、同じように言ってた人がいましたよ」

 (ここに掲載する作品は1998年ころから2002年の間に書かれたものです)