第5話 ブルーベリー
ブルーベリーと言えば紫色の小粒の木の実のことであろう。近頃は眼精疲労などの目に良いということで、健康食品としても人気が高い。青いベリー(漿果)ストロベリーのベリーである。
以上のことを記憶していただき本題に入ろう。
私が北九州支社から百道浜の本社に転勤になったとき、さる令夫人から餞別にネクタイを頂いた。そのネクタイを初めて締めて、会社へいく朝のことである。ワイシャツのそばに置いてあるそのネクタイを手に取った愚妻(まさにこう呼ぶにふさわしい)がこう言った。
「いいネクタイですね」と裏返して高級ネクタイのメーカーを確認する。私の場合ほとんどが「ロンシャン、グッチ、ダンヒル」などのブランド品である(?)
とくに「グッチ」はそのネーミングにおいて親しみを覚えている。GUCCIの前にEをつけてEGUCCIつまりエグチになるなどとつまらぬことで喜んだりしているのだ。
話がそれた。そのメーカーの英語を読み取った彼女がいった言葉。おお!ここに文章にするにも恥ずかしいことだが…。
「まあ可愛いネーミングだこと。ブルーベリーですって」
広い世界だ、どこかに「ブルーベリー」なるネクタイのメーカーがあっておかしくはない。しかし違うのだ。このネクタイは断じてブルーベリーなる乙女チックなハンカチメーカーの製品とは違うのだ。
賢明なる紳士淑女諸君に置かれてはここでフムフムと、この章の結末を予見されたであろう。
まさにご賢察の通り。この高級ネクタイは、かの大英帝国が第一次世界大戦においてその製品の優秀さを世界に広めたトレンチコートのメーカー「バーバリー」社の製品であるぞ。それをだ、ブルーベリーなるイチゴの親戚みたいな名前と間違えてしまうとは…。
怒り心頭に発して、ブルーベリーなる英語を辞書で引いてみたら「BLUEBERRY」とあるではないか。
バーバリーは「BURBERRY」と書く。
「BLUEBERRY」とは違うかもしれないが、似ている。確かに似ているが、細かく観察すれば少しだが違っている。スペルは似ているが、ではあるが…しかし許せるものではない。間違いは間違いである。
愚妻はいう「近頃小さい字が読みづらくてねー」
ならばブルーベリーのジュースでも飲ませて眼精疲労を回復させなければなるまい。世話の焼けるやつだ。
初筆 2001年 夏